2006年05月22日

居場所がない

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 「居場所がない。この社会で、家庭に、職場の中に、この世界のどこにも?」

 「居場所がない、自分の中にも。心が落ち着かなくて、何をしても空しいし、何をしても疲れてしまう。むくわれない気持ち?」

 「いつから居場所がなくなったのだろう? 生まれたときには、世界は自分をあたたかく迎えてくれたのだろうか? 世界は自分を受け入れることを認めていたのだろうか? それとも肉体という鉄の檻を与えるために、待ち受けていたのだろうか?」
 
 ・・・あなたの中に、もしこんな言葉が響いていたら。。

 それはきっと、今の時代多くの人が感じていることだ。外目には、社会で順調に働いているように見える人でも、幸せに暮らしているように見える人でも、安定して何不自由ないように見える人でも、、、。

 ぼくは多くのそうした本音をきいてきた。そして現実に「居場所のなさ」に苦しむ人たちにも接している。

 居場所とはなんだろう? 自分が落ち着けるところ、安心して自分らしく居られるところ、人といても緊張しないようなところ、「素」のままの自分を受け入れてくれるところ--ぼくが思い浮かぶのは、そんな感じだ。

 ぼくは今まで、ときどきこの「居場所のなさ」に苦しんできた。最初に行った大学は都会のど真ん中にあって、田舎者のぼくにはそれだけでストレスだった。それに加えて心から話せる友だちができなかった。そうしていつのまにか、大学に行くことが苦痛になっていた。

 ぼくは授業に出られなくて、喫茶店や、ジャズ喫茶や、ライブハウスで時間をつぶした。そうしたところで本当の安らぎはない。ただ、空しくて、誰かとつながりたくて仕方がなかった。都会に出てきた以上、何かをつかんで、田舎の友だちにも自慢できるようなひとかどの者になりたかったのかもしれない。

 それは苦しい時代だった。そんなぼくにとっては、病気という表現しか見つからなかった。

 精神科の病院は、同年代の仲間も沢山いたし、居心地のいい場所だった、それは過酷な都会の環境からぼくを守ってはくれたけれど、薬は強く、管理もされていて、本当は居心地よくはなかったんだ。

 ぼくは二年間の入院中、講堂でコンサートをしたり、外出時には新宿の街角に立って歌いはじめた。絵や詩を書きはじめた。強烈な自己表現への欲求がぼくを突き動かした。

 それでもぼくは、ついに逃亡した。病院じゃ楽になれない、薬では救われない、居場所はここじゃあない、強くそう感じた。

 それから、自分の直感や欲求に従って、長い旅がはじまった。いろいろな表現を追いかけ、興味ある仕事に挑戦した。そして、実際の旅でも、二十数
ヵ国を訪れた。

 で、ぼくは居場所を見つけたのだろうか? ぼくは今でもさまざまな挑戦を続けてとどまらない、そういう意味ではNOだ。けれど、じつは居場所とは、「自分が一番しっくりくる、これが自分だという生き方だ」と今降り返ってみて思う。ぼくはそれを求めていたのだ。そういう意味では、居場所はいつも進行形、ここにある自分、YESだ。

 職業や家庭や人間関係、何かに属していないとならないと思うとき、それを失った自分は同時に居場所を失ったと感じ、孤独にさいなまれてしまう。でも、そういった喪失感は、本当の居場所を見い出すための第一の関門なのかもしれない。

 関係性を失ったとき、人は強烈な孤独を感じてしまう。でも、孤独の中で苦しんでつかんだ実感、とにかく生きているという事実に気づいたとき、はじめて自分はここにいる、たしかに存在していることは否定できないことを知る。

 そこが起点だ。居場所は自分が逃げても守ってくれるという避難所ではない。自分はこう生きたい、ということを痛切に感じて、その感じを人に伝えるとき、自分の立つ場所がはっきりし、同時にそれに必ず共鳴する人があらわれる。

 まず自分、そして最初につながったひとり、そしてさらにそこからぽつりぽつりとつながっていく関係、そんな本物の共感で結ばれた絆こそが、居場所だと思う。

 自分の生に向かい合うことは、苦しい作業だ。けれどその孤独を通してつちかわれた言葉こそ、人に伝わる。わかってくれる人は必ずいる。ぼくはそうしてつながってきたし、自分の居場所「生きていていいんだ」ということを確認できた。

 居場所は形じゃない。ましてや社会の中の制度や仕事ともちがう。それらはみんな人と人との関係性だから、その関係性が共感で結ばれて育っていくところに生まれる場所こそ、本物の居場所になる。

posted by jksk at 01:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 私の歩んできた道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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